バングラデシュで見た「船の墓場」の真相|船舶解体の抱える問題と現状とは?!
バングラデシュで見た「船の墓場」の真相|船舶解体の抱える問題と現状とは?!

バングラデシュで見た「船の墓場」の真相|船舶解体の抱える問題と現状とは?!

船の墓場とも呼ばれるバングラデシュの船舶解体について、過去に世界中から非難を浴びた問題から直近に訪れて知った現状、そして今後の取り組みを含めて紹介しています。

バングラデシュでは約70社ほどの解体業者が事業を行っており、世界で最も船舶解体ビジネスが盛んな国。2017年の年間取扱総量において、バングラデシュは630万トンと 世界シェアの約30% を占めています。また次いでインド(576万トン)、パキスタン(430万トン)、中国(357万トン)が続き、 上位4カ国だけで市場全体の90% とほぼ全ての解体作業が行われています。 参考:JETROの進む環境改善、船舶解体業者の取り組みより引用

もう1つの理由としては、 労働者を低賃金で雇える ことが挙げられます。バングラデシュは貧困国なうえに人口は約1億7,000万人もいるため必然と労働人口は多くなり、解体業者は作業員の人件費を安く抑えることができます。

船の墓場が抱える問題とは?

バングラデシュのような発展途上国にとって船舶解体は重要な一大産業。大切な資源として再利用していることから一見すると良い取り組みのように思えますが、 労働、人権、環境に関する多くの問題 を抱えています。

日本社会において 「ブラック企業」 という言葉が当たり前に蔓延していますが、バングラデシュにおける船舶解体は想像以上に劣悪です。過去に 3K「きつい・汚い・危険」 の代表格だった建設業界が敬遠されたり、最近では一般職においても 新3K「帰れない・厳しい・給料が安い」 という言葉もありますが、バングラデシュの解体現場で働く労働者の境遇は私たちが考える悲惨さの限度をはるかに超えています。

バングラデシュでの解体現場の実態が世界的に知られ始めたきっかけは今から約10年前の2014年。 アメリカの大手メディア、 ナショナルジオグラフィック が発表した記事 によって衝撃的な事実が露呈しました。

  • ヘルメットや安全靴が作業員に支給されていない
  • 落下阻止器具、足場の設置なしでの危険な高所作業
  • アスベストやフロンガスなど有害物質に対する安全措置が未実施
  • 油汚染防止の排水路が未整備、汚染水の海洋投棄など適切に処理されていない
  • 18歳未満の子供が就労している

上記は同メディアで告発された内容を抜粋したものです。 参考: ナショナルジオグラフィック より

これだけの過酷な労働にも関わらず、 労働に対する 対価=給料 も悲惨 そのもの。

結論からお伝えすると、 時給は50円以下 です。

発展途上国における船舶解体は労働時間と給与の低さから「 現代の奴隷制 」と揶揄されることも。全国各地から家族を養うため、生活のために仕事を求めて集まった作業員たちは解体作業の側にある小屋に集団で住み込みで働くことを課せられます。2018年に調査した内容によると、1日14時間シフトで週6日間、日給は5ドル以下という過酷な環境で働いていたとされています。 参考:船の墓場 南アジア(Gloval News View)より引用

他にも、生活のために18歳未満の子供が父親に連れられて 児童就労 せざるを得ない状況や、解体作業で発生する油汚染に対する措置が取られてない、有害な化学物質をそのまま海洋投棄するなど 環境汚染 においても問題を抱えており、国際労働機関(ILO)や国際海事機関(IMO)によって認可されてない方法での解体作業が平然と行われていました。

そのため状況を是正するために、EU諸国など一部の国では 船舶解体の環境が整っていない事業者には船舶を売却しない など二次・三次被害を抑えるための動きもあり、特に投資家の意識が高いノルウェーでは 不適切な取引を実施している船舶会社の株は売却する 対策が講じられています。しかしながら世界的なルールとして法規制までは進んでおらず、抜本的な解決には至っていません。

船舶解体現場の実態について

私がチッタゴンの船の墓場を訪れたのは2022年12月。悲惨な状況が世界的に知られるようになってから暫く経ちます。海外メディアやジャーナリストに度々告発されたこともあってか、ほぼ全ての解体業者は関係者以外が立ち入りできないよう厳重に警備されていました。

チッタゴン空港から「Bhatiari」という場所にタクシーで向かい、解体作業の現場に潜入できそうな場所を探しました。

入口に掲げられていた看板を見ると、注意書きとして「 18歳未満の方は雇用できない 」ことが記されています。しっかり徹底されているかは不明ですが、バングラデシュ政府による法規制は解体事業者に通達されていることが窺えます。

こちらの内容については憶測も含まれているため「思われる」のように 曖昧な表現 を使用しています。私が訪れて見たままの事実をお伝えしてますが、あくまでも解体現場の一部であり、船の墓場の全貌までは把握できてないことをご理解お願いします。

船舶解体における今後の課題と展望とは?

船舶解体については 労働災害や環境汚染が国際的な課題 となっており、バングラデシュのみならず、造船業・シップリサイクル業に携わる世界各国がともに法整備など国際ルールを設けて同じベクトルで取り組まない限り、解決には向かいません。

日本主導で国際海事機関(IMO)に働きかけたことにより、船舶の解体における労働安全確保と環境保全を目的とした 「2009年の船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約」と呼ばれるシップ・リサイクル条約(Hong Kong Convention:HKC) が採択されました。

  1. 船舶に関する要件
  2. 船舶解体施設に関する要件
  3. 船舶解体の手順

しかしながら、HKCが採択となっても違法な行為に対して罰金や処分が下るわけではなく、単に行動指針が決められただけで効力はありません。 実際に効力が発生する ためには以下の条件があります。

HKCの発効には前提として、インドやバングラデシュなどの船舶解体の主要国が締結しない限りは実現しません。条約の発効には困難を極めましたが、日本政府がバングラデシュ政府に対して廃棄物最終処分場の整備等の支援を検討するなど働きかけた結果、 ついに直近の2023年6月23日にバングラデシュが条約締結に合意しました。 さらに、同日付で便宜置籍船を多数保有するリベリアも条約を締結したことにより、条約の発効要件を満たしました。

まとめ

しかしながら、バングラデシュにおける同条約の基準とする全ての要件を満たした船舶解体業者は、2023年3月時点ではまだ、PHP社(PHP Ship Breaking and Recycling Industries Ltd.)の1社のみとなります。今から2年後の2025年6月26日に発効となりますが、その時点で全ての解体業者が要件をクリアしない場合、船舶解体に取り組める解体業者が減少することになる為、結果として雇用の減少、鉄資源不足となりバングラデシュ経済に悪影響を及ぼす可能性もあります。