すずさんの“手触り”ーー『この世界の片隅に』/『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督インタビュー
すずさんの“手触り”ーー『この世界の片隅に』/『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督インタビュー

すずさんの“手触り”ーー『この世界の片隅に』/『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督インタビュー

こうの史代の漫画を片渕須直監督がアニメーション映画化した2016年の傑作『この世界の片隅に』が、NHK総合で放送される。昨年8月3日の初放送に続き2度目の放送となる。18歳で広島の呉に嫁いできた女性・すずの目線と体験を通して、戦時下に暮らす

片渕 逆に言うと、すずさんの持つ多様な要素をひとりで持っていらっしゃる人は、他にあまり見当らなかった。たとえば、コトリンゴさんに音楽をお願いしたのは、コトリンゴさんの音楽のフワフワした柔らかさが、すずさんの何とも言えないまろやかさみたいなのもにマッチしている気がしたからです。すずさんの声も、そういうまろやかさを持っていつつ、ちょっとおっちょこちょいで(笑)、でも意外と行動力があって。なおかつ物語の最後のほうで大変な状況になったときには、もっと別の心理が出てきたり、大人になったときの声が出せたり。そして、すずさんは18歳でお嫁に行くので、基本的にそれくらいの年齢感で聞こえないといけない。それって誰だと思うと……びっくりするほど、ひとりしかいないような気がしました。

片渕 そういう意味で言うと、多分こうのさんとは、もともとやりたいことが近かったような気がするんです。大きな事件を追いかけるのではなくて、普通に起こっているできごとの細かいところを描く。『この世界』もそうですが、四コママンガの『ぴっぴら帳』も、飼っているセキセイインコが何かおかしなことをやるだけという作品だったし。そうだ、僕は実は『名探偵ホームズ』(1984年、片渕監督は演出補・脚本で参加)のときに、毎回、違う乗りものを出そうと思ったんです。今回は潜水艦、今回は飛行機、今回は飛行船、とか。同じように『名犬ラッシー』(片渕監督の1996年のTVシリーズ)では毎回、違う食べものを出そうと思いました。で、たとえばシフォンケーキ焼くとなったら、卵を割るとこから描く。そして『この世界』をはじめて読んだ時ときに、「あ、同じことをやっている」と感じたんです。

片渕 何となくこの作者は、自分と同じようなことをおもしろがる人、同じような興味の抱き方を持った人じゃないかなって思いました。そしたら、こうのさんはこうのさんで、『名犬ラッシー』を観ていたそうで。企画の提案を受けて「『名犬ラッシー』をやっていた人からアニメ化したいと言われたら、これはもう運命だからやるしかないと思います」って言ってくださったらしいんです(笑)。

片渕 こうのさんにとって『この世界』は、自分自身のあらゆるものを投げ入れた一番の大作なので、本当はもっとリアクションが返ってきてもいいはずだと思っていたそうです。でも、「『夕凪の街 桜の国』が好き」と言ってくれる人は多いけれど、『この世界』のことはあまり語られないように思ってしまっていた、と。それがアニメーションでやるとなったら、これだけのお客さんが支持してくださっているとわかって……こうのさんは「今までみんな、どこにいたんだよ!」と言っていました(笑)。

片渕 今こうして映画が公開されることで、また人の目に触れるようになってきて。「映画になるっていうからはじめて読んだら、すごかった」という人も増えてきたようで、自分としては一番、冥利に尽きるというか。原作がどんどん広まるっていくのを感じると、本当にそうあって欲しいと思っていたことが叶えられている気がして嬉しいです。