中国、マイクロ波制御のみによる「量子誤り訂正」を実証:米中の量子コンピュータ開発競争は新たな段階へ
2025年12月、量子コンピューティングの歴史における重要なマイルストーンが、中国の研究チームによって達成された。中国科学技術大学(USTC)の潘建偉(Pan Jianwei)教授らが率いる研究チームは、超伝導量子プロセッサ「Zuchongzhi 3.2(祖沖之
この手法は強力で高速だが、「配線」という深刻な副作用を伴う。量子プロセッサは絶対零度に近い極低温環境(希釈冷凍機内)に置かれている。ここへ外部から制御信号を送るケーブルは、熱の侵入経路となり、また物理的なスペースも占有する。リーク対策のために専用の配線や制御ラインを追加することは、100個程度の量子ビットなら可能でも、将来的に100万個の量子ビットを制御する段階になれば、冷凍機内がケーブルで埋め尽くされ、物理的に破綻するリスクがある。
USTCの革新:マイクロ波による多重化制御対して、今回USTCのチームがPhysical Review Lettersで発表した手法は、「全マイクロ波制御(All-microwave control)」である。
- 周波数多重化(Frequency Multiplexing): 1本の同軸ケーブルに、異なる周波数の信号を複数重ねて送る技術。
このアプローチの最大の利点は、「配線の複雑さを劇的に緩和できる」点にある。既存の制御ラインを流用・共有できるため、冷凍機内の配線密度を下げることができ、熱負荷も軽減される。これは、量子コンピュータを将来的に大規模化(スケーリング)する際、極めて有利な特性となる。
SCMP(South China Morning Post)の報道によれば、この手法により、チップ上のレイアウト制約が緩和され、より高密度な量子ビット配置が可能になるとされている。つまり、中国チームは単に性能で追いついただけでなく、「より効率的で拡張性の高いルート」を開拓した可能性があるのだ。
なぜこれが科学的に重要なのか:スケーラビリティのジレンマ解消
希釈冷凍機の限界超伝導量子コンピュータは、ミリケルビン(mK)オーダーという、宇宙空間よりも冷たい環境で動作する。この環境を作り出す「希釈冷凍機」は、最下段の冷却能力(熱を運び出す能力)が非常に限られている。一般的に、数マイクロワットから数ミリワット程度の発熱しか許容できない。
3.2 マイクロ波アプローチの優位性- 配線リソースの節約: 多重化により、物理的なケーブル数を削減可能。
- チップ設計の柔軟性: リーク除去のための特別な回路素子をチップ上に配置する必要性が減り、量子ビットの配列や結合の設計自由度が増す。
- スケーラビリティ: 1000量子ビット、1万量子ビットと規模が増えた際、ハードウェアの複雑性の増加カーブを緩やかにできる。
研究の背景と文脈:米中量子競争の最前線
追いかける中国、逃げるGoogle- 2022年: Pan Jianwei教授のチーム(USTC)が、前世代機「Zuchongzhi 2」で距離3の表面符号を実証。
- 2023年: Googleが距離5の誤り訂正で先行。
- 2024年: Googleが新プロセッサ「Willow」で距離7を達成し、閾値以下の動作を安定化させる。
- 2025年(今回): USTCが「Zuchongzhi 3.2」で距離7を達成し、独自技術でGoogleに並ぶ。
量子コンピュータ開発の今後
実用化への道のり- 量子ビット数の増大: 実用的な計算(例えば新薬開発や複雑な物流最適化)を行うには、数千から数万の論理量子ビットが必要であり、それを構成するには数百万の物理量子ビットが必要となる。現在の100個レベルからは4桁以上のスケールアップが必要だ。
- エラー率のさらなる低下: 現在の抑制係数1.4は、閾値を超えたとはいえ、まだ改善の余地が大きい。これをさらに向上させ、より少ない物理リソースで高い信頼性を確保する必要がある。
量子コンピューティングは「物理」から「工学」のフェーズへ
論文
- APS Journal: Experimental Quantum Error Correction below the Surface Code Threshold via All-Microwave Leakage Suppression
参考文献
- South China Morning Post: China’s new quantum computer hits stability milestone, beating Google on efficiency