交通事故における信頼の原則
交通事故における信頼の原則

交通事故における信頼の原則

交通事故事案で「信頼の原則」ということばをときどき耳にします。「信頼の原則」って何か。どういう場合に適用されるのか。そして、適用された場合はどういう効果があるのか。以上の疑問にすべて答えました。

特に車両同士の交通事事件における過失の有無の判断に当たっては、相手方の顕著な道路交通法規違反行為や異常な運転が事故の原因となっている場合には、道路交通法規に従って運転していた運転者には事故の発生につき予見可能性がなかった等として過失が否定されることがあり、このような考え方については、一般に、「信頼の原則」と呼ばれている。

もっとも、「信頼の原則」については、相手方が適切な行動に出ることを信頼することができる場合に適用されるのであるから、そのような適切な行動に出ることを信頼することができない幼児や高齢者に関しては適用されないとされ、その他の事案に関しても、その適用をめぐっては十分慎重に検討される必要がある。

いずれにしろ、交通事故の被害者である原告が、過失の評価根拠事実として・・・加害者である被告における定型的注意義務違反の存在について主張・立証した場合には、被告は自己の責任を争うときは、その評価障害事実として、被害者の道路交通法規違反の行為等の道路交通上の異常な事態により、交通事故の発生という結果を具体的に予見し、又はこれを回避することができなかったという事実を、特段の事情として主張・立証することになると考えられる。(「交通損害関係訴訟」P33))

  • 438ページ
  • 青林書院
  • 2013/7/1

信頼の原則は訴訟手続的には、事実上、被害者側の立証責任を緩和する働きをする

自動車や歩行者は、他の自動車・歩行者が道路交通ルールに従い適切に行動するであろうことを信頼することができ、かかる信頼が相当である場合には、それによって事故が発生しても責任を負わないとする考え方。

すなわち、信頼の原則により、他の者の違法な行為によって発生した結果については、予見可能性がない、または回避義務がないとして、過失なしとされる。

ただし、過失相殺があるので、適用は慎重にとある。さらに、信頼の原則は対等者間で働くものであるから、車両と歩行者との事故については、あてはまらないというべきであるとしている。

また、信頼の原則は訴訟手続的には、事実上、被害者側の立証責任を緩和する働きをするとしている。(「交通事故訴訟 (専門訴訟講座)/民事法研究会」

「交通事故訴訟 (専門訴訟講座)
  • 1013ページ
  • 民事法研究会
  • 2020/3/4

「信頼の原則」をもっとわかりやすく説明してみると

この説明だけではわかりづらいので、省略されているところを加えて以下のように再構成してみました。

相手の主張だと、右折車の後続車が右折車側方から前方に出て衝突した事例

信頼の原則 最高裁 平成3年11月19日判決

信頼の原則を適用すべきかどうか判断する際の参考事例

信頼の原則とは、「他人が予期された適切な行為に出るであろうことを信頼するのが相当な場合には、たとえその他人の不適切な行動と自己の行動とが相まって法益侵害の結果を発生させたとしても、これに対して過失責任を問われない」とする法理であり、信頼の原則の適用があると、結果予見可能性があったとしても結果回避義務が免除されます(以下(注:以上?)「刑法総論講義案(三訂補訂版)」司法協会146~151頁)。

(信頼の原則に限界について)自動車運転上、①最も基本的な注意義務である前方注視義務や車間距離保持義務等まで免除されるわけではなく、また、信頼の原則を適用するためには、②相手方の適切な行為を信頼することに相当性があることが必要ですから、被疑者側に重大な過失や道路交通法違反がある場合には、信頼の原則は適用されません。これは、いわゆる「クリーンハンドの法理」と呼ばれるものです。

ただし、被疑者に過失や道交法違反があった場合であっても、その過失の程度や違反の程度が重大とまではいえない場合、信頼の原則が適用されることがありますし(最高裁 昭和45年11月17日判決等)、他方、相手が車両ではなく歩行者であった場合、さらに、その歩行者が子供や高齢者、酩酊者であった場合には、信頼の原則が適用されないことがありますので(東京高裁 昭和42年9月21日判決等)、個別の検討が必要になります。

運転免許を取得する過程で道交法等の交通ルールを学んでいるはずの自転車運転者に比べ、歩行者の場合はそうとは限らないこと、もともと交通弱者である歩行者には、車両の運転者よりも大きな保護を与える必要があること、特に子供や高齢者などは、一般的に注意力が低く、運転者側で用心する必要性が高い(信頼の基礎を欠く)ことなどがその理由です。(「基礎から分かる 交通事故捜査と過失の認定」P15‐)

「基礎から分かる交通事故捜査と過失の認定」
  • 360ページ
  • 東京法令出版
  • 2017/5/17

信頼の原則を適用した判例

最高裁 昭和45年1月23日判決自動車の通行の頻繁な幹線道路では、歩行者の飛び出しがないものとして信頼して運転すれば足りるとして免責を認めた。 最高裁 昭和48年6月21日判決青信号で直進する車両に速度違反があっても免責が認められる。 最高裁 昭和52年2月18日判決赤信号を無視して交差点に進入する車両があることを予想して、交差点手前で停止することができるように減速して、左右の安全を確認すべき注意義務はない。 名古屋高裁 昭和52年9月28日判決交差点で右折しようとする運転者は、適切な右折準備態勢に入った後は、後続車が違法異常な運転をすることまで予想して後方の安全確認を尽くすべき注意義務はない。 速度違反がすごいと、直進車の優先通行権は喪失する 右折車と後続直進車との事故の過失割合 バイクの路側帯走行と過失割合 センターラインが消え、道路標識が見えなくなったときの事故の過失割合 過失相殺できるのは、事故との因果関係がある場合に限られる ゼブラゾーン事故と過失割合 7 COMMENTS

あまりに馬鹿馬鹿しすぎるのか類似の判例なりが見つけられないです… 相手損保N火災はなぜか50:50を主張してきているというか無理な主張だとはわかった上で解決する気は無いのでそう主張しているようです。 あらかじめ左端によらない左折車、で8:2からスタートして加害者側不利にどれだけ過失修正するかの争いになるのが普通だと思うのですがそういう話にさえたどり着かない状態です。

東京地裁 平成10年3月24日判決<出典> 交民集31巻2号416頁 片側3車線の道路で、加害車の前方に右折待ち停車車両が重なったため急に左方の車線更したため、その車線を走行してきた被害乗用車と衝突した事案で、方向指示器を出さず左折した加害車に対し、被害車も前方不注視の過失を15%認めた事例。

名古屋地裁 平成11年11月24日判決<出典> 交民集32巻6号1833頁 進行する道路が右折レーンとなるため、突然左車線に車線変更した加害車と左車線を並進する被害車とが接触し、対向車線にはみ出し対面進行してきた訴外車に衝突した事故につき、被害車に自動車運転者として期待される一般的な注意義務があったものと2割過失を認めた事例。

信号機も横断歩道も無い片側一車線の一般道を走行しておりました。 手前に交差点があり、青信号を示しており自車は直進しています。 対向車線は交差点を右折待ちの車で渋滞していました。 交差点を50メートル位進んだところで急に自転車の高校生が車の間から飛び出してきました。 自転車の高校生は渋滞のハイトール型のハッチバック車の死角から飛び出してきたため、運転席から高校生を確認できたのは自車前方2メートルという状況でした。 もちろん避ける事もできず衝突し、高校生は救急搬送となりました。 一応保険会社に連絡したので、高校生の医療費は自分の保険から全額支払われる事になりましたが、免許の違反点数等の処理が成されていません。 調べたところ人身事故に関しては違反点数4点とありました。 証拠としてドラレコに交通の状況からの事故の瞬間まで記録されています。 上記にある信頼の原則この状況においては採用されるのでしょうか? 相手は高校生、横断歩道等の無い道の車の間からの飛び出し 当方においては通常の道交法条件下では違反行為の伴う運転はしていないです。 この信頼の原則というのは違反点数に絡んでくるのでしょうか? 保険会社の支払い云々での話なのでしょうか?

訂正します。 事故現場は信号のある交差点から50メートル先であり、対向車線は交差点の右折待ちの車の影響で渋滞気味でした。 当方は交差点を青信号で直進して、対向車線の渋滞車列の横を走っています。 通過した交差点には信号と横断歩道が付いており、朝の時間帯では被害者の通う高校の生徒の大多数が大多数の人がその交差点の横断歩道を使用して道路を横断して学校へ通う姿が毎度見られていました。

事故の時刻は朝の通学時間帯であり、通過した交差点には信号待ちの学生の自転車が信号待ちをしていたのを確認しています。 その道の交差点を曲がると主要国道があり、多くの対向車は交差点を右折する為当該車線が流れていても対向車線は10台以上の車の列ができている状況でした。 信号を青信号で直進して渋滞する対向車線沿いを進むと、突然ハイトールタイプのハッチバックの車の陰から自転車の高校生が飛び出して来ました。 完全に車の陰に隠れており死角からの飛び出しです。 ドラレコにおいても、視認出来た距離は2メートル前方という距離でしたのでこちらも為す統べなく衝突しました。 これが、事故の概要です。

自分が言いたいのは、信頼の原則として安全に横断できる場所が付近にある状態で直進している運転者に対して、歩行者や自転車という存在が全くの死角から法規無視して起こした事故において、信頼の原則という概念が適応されるのかということです。 運転者は一般道路を法定速度内で走行しており、歩行者や自転車が安全に横断できる場所が付近に存在していることを理解した上で走行しています。 そこに渋滞となった車列の陰から飛び出して来た状況において、予測できたか?という観点になります。 自分の考えだと、50メートル先に横断できる場所があるのだからその横断方法を選択するのが一般的だと思います。 その考えというのはここで差す信頼の原則に該当するのでは?と思ったのです。

「基礎から分かる 交通事故捜査と過失の認定」から加筆しましたので、参考までに確認しておいてください。 そのうえで、私的な感想を述べたいと思います。

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