映画『動物界』感想(ネタバレ)…あらすじは動物化する
映画『動物界』感想(ネタバレ)…あらすじは動物化する

映画『動物界』感想(ネタバレ)…あらすじは動物化する

そしてウヴググググググ…映画『動物界』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。原題:Le regne animal(The Animal Kingdom)製作国:フランス・ベルギー(2023年)日本...

本作は、人類社会の間に謎の突然変異の奇病が蔓延する世界を舞台にしています。それは 人間の身体が動物のように変化していく というもの。動物の種類はさまざまで、哺乳類もあれば鳥類であったり、それ以外もありです。それは原因不明で、治療などもできず、その「動物化」に見舞われた人は否応なしに 人間と動物のハイブリッド のような見た目に徐々に変化していきます。そして気質も動物的になってしまい、コミュニケーションがとれず、攻撃性が増します。

こういう人間が動物化する現象が起きた世界を描くものと言えば、ドラマ 『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』 がありましたが、あちらはまだ子どもでも観られる親しみやすいタッチがありました。

ドラマ『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』感想(ネタバレ)…シカ人間でした パンデミックで崩壊した世界で生きるのはシカ人間でした…ドラマシリーズ『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』の感想です。. cinemandrake.com

この『動物界』はフランス映画であり、 大人向けの社会批評性 を全面に出しています。 ゾンビや吸血鬼モノの派生形 といった感じで、 『CURED キュアード』『ディストピア パンドラの少女』 に近いものがあるかな。

『CURED キュアード』感想(ネタバレ)…パンデミックは終息してからが苦難 パンデミックは終息してからが苦難…映画『CURED キュアード』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレあ. cinemandrake.com 『ディストピア パンドラの少女』感想(ネタバレ)…このゾンビ映画は文部科学省推薦にしよう このゾンビ映画は文部科学省推薦にしよう…映画『ディストピア パンドラの少女』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後. cinemandrake.com

また、ポストアポカリプス的にはなっていないというのも『動物界』の特徴です。 まだ普通に社会経済も成り立っていますし、日常社会を維持しています。 このあたりのタッチはコロナ禍の風景に近く、既視感がありますね。

『動物界』は 2023年の本国公開でフランス国内で大ヒットした そうで、エンターテインメント性も一定の確保があり、いろいろな層に受けやすかったのかもしれません。

セザール賞 では、作品賞、監督賞、脚本賞などにノミネートされ、 撮影賞、音響賞、音楽賞、衣装デザイン賞、視覚効果賞を受賞 。フランスの2023年を象徴する話題作でした。

この『動物界』を監督したのは、 “トマ・カイエ” という40代のフランス人。2014年に Love at First Fight(Les Combattants)』 という作品で長編映画監督デビューを果たし、一気に高評価の注目クリエイターに。2018年には 『Ad Vitam』 という医療再生技術で老化を克服して命が若返ることができるようになった世界を描いたドラマシリーズも手がけました。今回の『動物界』は長編映画2作目です。

ただ、『動物界』は“トマ・カイエ”発案ではなく、映画学校の学生だった “ポリーヌ・ミュニエ” の考えた脚本が基になっているそうです。

『動物界』を観る前のQ&A ✔『動物界』の見どころ ★ヒトと動物の境界を通して投げかけられる社会風刺。 ★動物化する人間の映像表現。 ✔『動物界』の欠点 ☆動物と言っても小さい子どもには不向き。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0 :作風が気に入れば 友人 3.5 :社会SF好き同士で 恋人 3.5 :恋愛要素は薄め キッズ 3.0 :やや怖い描写あり ↓ここからネタバレが含まれます↓

『動物界』感想/考察(ネタバレあり)

あらすじ(前半)

車を運転する フランソワ は16歳の息子 エミール を連れて出かけていました。目的は医療センターにいる妻の ラナ に会いに行くためです。しかし、渋滞であまり前に進みません。エミールは助手席で犬におやつをあげていました。フランソワをタバコを吸い、息子と親子の会話をします。

ところがエミールは車を降りて歩いていこうとします。そのとき、近くのバンから後部扉を突き破って何かが飛び出してきます。 それは人のようですが、翼があり、スタッフが取り押さえようとするも軽々と吹き飛ばしてしまいます。 そして何か人ならざる声をあげ、走り去ってしまいました。

施設の待合室で待っていると医者に呼ばれて説明を受けます。現在、この世界では原因不明の突然変異により、 人間の身体が徐々に動物と化していく得体の知れない奇病が蔓延していました 。しだいに凶暴性を発揮するため、症状に応じて施設で隔離するしかできません。

そして ラナも動物化している のでした。医者の人いわく、 動物化した人々を集めて特定の施設に収容するために移送する らしく、ラナもそのひとりのようです。家族にはどうしようもなく同意せざるを得ません。

フランソワとエミールはしばらくの仮住まいとなる場所に車を走らせます。森を通り抜けた先にある町で、家は森の中にありました。道中で 巨大な壁に囲まれた施設 も見えました。

エミールは学校で転入生として紹介されます。フランソワは ナイマ の経営する飲食店で働くことになりました。新生活です。

翌朝、倒木などを片付けていると連絡がありました。動物化した人たちを移送中のバスが夜の間に転落事故を起こし、 動物化した人たちが何人か逃げ出してしまった というのです。

その中にはラナもいました。現場は騒然。警察の ジュリア は行方不明の人たちの捜索が行われていると教えてくれます。ラナもどこかへ消えたらしく、フランソワとエミールは心配します。

この『動物界』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/10/29に更新されています。 ダイバーシティは異常とみなされる

『動物界』の世界で起きている 「身体が動物化する」 という現象は相当に荒唐無稽です。現実にも「尻尾が生えている」とか「体毛が全身でびっしり毛深い」とか、そうした身体特徴を持って生まれてくる人間は実際にいますが、それはあくまで祖先の霊長類の形質が現れた特殊なケースです。

今回は哺乳類どころか鳥類や爬虫類、節足動物、あげくには軟体動物まで何でもありです。これはもう 『スパイダーマン』 のヴィラン大集合みたいです。

単純に映像化するとすごくバカバカしい絵面になりかねないのですが、 本作は上手くそのフィクションをリアルと馴染ませており、 序盤から納得してしまいます。

序盤からわかるのはこの世界では「身体が動物化する」という現象は 「奇病」として病理化されている ということ。そのため、大半の人は「変な病気に見舞われた人」という認識でしか当事者をみておらず、 他者化 しています。パンデミックのような急拡大でもないらしく、社会の日常は保たれているので、気にしていません。

要するに 「障害者」 みたいな扱いなんですね。本作はそのテーマをより示唆するかのように、エミールの転校先で ニナ という生徒が登場し、彼女はニューロダイバーシティ(ADHD)として描写されています。つまり、非定型的であるゆえに「異常」扱いされている存在と同質じゃないですかという実態を映し出しています。

動物化した当事者は凶暴性があると世間では認知されていますが、それも本人がその急激な変化に驚いてパニックになっているだけだったり、会得した人間離れした能力の使いこなしができていなかったり、はたまた強制的な隔離でストレスがかかって防衛行動をとってしまっているだけだったり、よくみると 凶暴と簡単に片づけられない背景がある ように思います。

しかし、世間はそんな事情をくみ取らないので、 安易に「攻撃性が高い」と決めつける 。これもニューロダイバーシティ当事者にはよく降りかかる偏見です。

本作はニューロダイバーシティをその文字をいじるように バイオダイバーシティ(生物多様性) で表現してみせた意欲作なのかな。

自分に近しい見た目の異質者だから…

さらに『動物界』はその「身体が動物化する」現象に見舞われた当事者を他者化するだけでなく、 悪魔化 することで社会が分断され始めていることを描写しています。

このあたりはニューロダイバーシティ差別だけでなく、性的マイノリティへの差別だったり、人種差別だったり、移民差別だったり、さまざまな 排外主義 と重ねられるものです。

その反ハイブリッドの人たちが 「動物は好きだがハイブリッドは嫌いだ」 ということを平然と口にするのが象徴的です。作中では冒頭からフランソワとエミールの家族は 愛犬 を飼っており、仲がいいです。ヒトと動物、姿も違えば言葉も一緒ではない相手でも融和できる最もわかりやすい事例のはず。なのに動物化した人間には嫌悪感情を剥き出しにする人たちがいるという矛盾。

人は最初から全く見た目が違うものよりも、自分に近しい見た目の異質者ほど怖がる のかもしれませんね。 『アウト・オブ・ダークネス 見えない影』 でも描かれていた心理だけども…。

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作中では完全に「狩り」の気分で何も気にも留めていない人もおり、 非常に暗い未来を予感させる のですが、まだこの社会はこの差別主義を放置すると大変なことになるという問題を認知していないようです。

本作は ポストアポカリプスになる一歩手前の予兆 みたいな空気を漂わすのも独特でしたね。

当事者の目線からみる新世界

上記はすべて『動物界』における「身体が動物化する」現象に見舞われた存在を外から見つめる側の視点ですが、 「身体が動物化する」現象に見舞われた当事者側の視点 も描かれており、それは後半にいくにつれ増えていき、作品の印象さえも変容させていきます。

最初は「身体が動物化する」という未知の現象に対する恐怖が強調されます。完全に ボディホラー ですね。かなり生々しく、演出も不気味さが際立ちます。

しかし、エミールが フィクス という鳥人間と出会い始めると、雰囲気は変わります。そして空を飛ぶ練習に付き合って繰り返し(ちょっと面白い)、 ついに大空を雄大に飛べるようになった瞬間の高揚感 。エミールにとっても観客にとっても「ああ、動物になるのも楽しいかもしれない…!」と感じさせる興奮です。

終盤にはエミールは森の奥深くでほぼ動物化している母と再会し、 多種多様な元人間の動物たちの世界 に迷い込みます。ずっとこの現象は人間と動物のハイブリッドを生み出すように描かれていましたが、症状が進むと完全に動物化し、人間要素が消えるようです。

それでもこの世界に怖さはもう感じません。それよりも 神秘的で、荒んだ人間社会にはない平穏があるような…

人間が動物化するというと 『ロブスター』 もありましたが、『動物界』は動物化によりポジティブな味わいを残して去っていってくれます。まだ人間同士である父子の和解もプラスされ、希望を滲ませて…。

エミールがどの動物に身体変化しているのか最後まで描かれない のもいいですね。

『動物界』 シネマンドレイクの個人的評価 8.0 LGBTQレプリゼンテーション評価 –(未評価)

作品ポスター・画像 (C)2023 NORD-OUEST FILMS – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA – ARTEMIS PRODUCTIONS

The Animal Kingdom (2023) [Japanese Review] 『動物界』考察・評価レビュー #フランス映画 #ニューロダイバーシティ

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