キングデラックス - 扱いやすい定番の中砥石
砥石の裏話- キングデラックス(PB-04貼付分)を一本使い切った人が、他の砥石と比較。不吸水砥石のデメリットを知れば、キングデラックスのメリットが良く判る
ステンレスの包丁の場合 は… 800番で粗目のギザギザを刃筋に付けることができ、刃のかかりが非常に良好です ステンレス刃物は、下手に番手を上げると「滑り」が出て、切りかかりが悪化する事がありますが、あえてやや番手を落とすことで、刃がかりの良い刃を付けることができるのです 800番という低番手と安物包丁の組み合わせで、どれだけの切れ味を出せるか? …については、上のリンク先ページでテスト・検証しています。合わせてご覧ください
ハガネの包丁の場合 は… 番手が低い分だけ切削力が高く、研ぎ始めからカエリ出しまでが早いです。さくっと楽に「返り」を出すことができます
ハガネの包丁は、思い切って高めの番手で仕上げても、刃の掛かりがさほど悪化しません (これこそが、ハガネの包丁が切れ味が良いと言われる肝の部分だと思います) その場合は、つなぎの3000番→仕上げの6000番と番手をあげ、キレキレの刃に仕上げていきますが、最終的に高い番手で仕上げるのであれば、最初のエッジ形成は低めの番手を使用した方が早くて楽なのです (刃筋の修整や、わざわざ荒砥を出す程ではない、ごく小さな刃こぼれの修整についても、同様に効果的です)
シャプトンの刃の黒幕を「切削力が高いので良い砥石」と安易に語ってしまうサイトが多い ですが 、切削力が高い というのは 「同じ番手の砥石と比較した場合」 という条件あっての話です
わたしがこの キングデラックス#800番を入手する前は、同じキング砥石のPB-04を長年使用 していました PB-04については、こちらのページで詳しく解説していますが、片面が800番、もう片面が6000番の両面砥石となっており、800番側はキングデラックスの800番が使われています
そういう意味では、 キングデラックス800番をかれこれ30年 ほど使い続けていることになり、「実質的に、これで2本目」になります
キングデラックスの良さ(吸水する焼結型砥石のメリット)
ここで使っている砥石で判る通り、わたしの砥石の好みは、 切削力や平面維持度の高さよりも、扱いやすさやコントロール性を優先 させています(和包丁を研ぐ場合は特にです)
車のタイヤで言うと、グリップ力は適度で構わないので、滑り出しが判りやすく、万一滑ってもコントロール性が良好で、アクセル開度次第で意のままにドリフトできるような「 コントーラブルで扱いやすい砥石 」が好みです
ハイグリップだけれども、グリップを失うといきなりスピンするような扱いの難しいタイプは必要ないのです 仕事でやっているわけではありませんので、研磨力が高くてちょっと速く研げたからといって 「だからどうした?」 という感じなのです。高性能でクリティカルなキャラクターよりも「安定した扱いやすさ」が重要なのです
刃の黒幕に代表されるマグネシア製法の砥石は、最適な水の状態から、水切れ状態までの遷移がややクリティカルで、ちょうどよいマージン幅が狭い ように感じます 砥石が水を吸わない上に、砥泥の出も少ないのですから、当然といえば当然 です。(どうして誰もこれを指摘しないのでしょう? 誰も気にならないのでしょうか?それとも気づいてすらいないのでしょうか?) この件に関しては、刃の黒幕(シャプトン)のページでも解説しています(あわせてご覧ください)
これに対して、キングデラックスに代表されるビトリファイド製法の焼結型砥石は、水が多すぎれば(ある程度は)砥石が吸収しますし、砥石表面が水切れしてきたとしても、砥石内部に多量の水を蓄えているため、いきなり水切れしたりはしません 適正な水状態を維持するマージンが、格段に広い のです
※ 砥石表面でハイドロプレーニングが起こると書きましたが、洋包丁の場合はまず起こりません。面で研ぐ和包丁で(気を抜いて)力を緩めがちにストロークすると、手応え無く「にゅるっ」と滑ってこうなる場合があります マグネシア製法の砥石は、砥石を固めているセメントの材質が水に溶け出すと、質感が「にゅるにゅる、むちむち」したエマルジョンっぽい液体になる傾向 があるため、このような懸念があります ビトリファイド製法の砥石は、砥泥が出ても、良い意味で「サラサラ、ザラザラ」 としており、このような懸念がまずありません
こだわりのカンナやノミを持っている方が、平面維持度の高いカチカチの砥石を高く評価するのも、よく理解できます 研ぎ終わりまでどれだけ平面でいられるかが、和の大工道具の仕上がりの肝だからです そのような方向性を突き詰めると、電着ダイヤモンド砥石や、カチカチで減らないオイルストーンがベストの砥石になってしまいます
- 適度に砥泥が出て、目詰まり知らず
- 目詰まりしないので、名倉砥石も基本的に不要
- 水管理のマージン幅が広く、乾いてきても水切れしにくい
- 力をかけても力を抜いても、滑り具合と削れ具合が手に感覚としてよく伝わってくる
わたしが実際に研いでいる様子は、下の動画で見ることができます 5分少々の時間で、さくっと刃を付けています 後半の「最終仕上げ」は、無理にやらなくても構いません(自己満に近い部分です)
字幕で補足解説を入れています。 日本語字幕をON にしてご覧ください でないと、 単に手を前後に動かしているだけの動画 にしか見えません 0分00秒:研ぎ台の全体像(表面と裏面) 0分20秒:砥石の浸水 1分20秒:研ぎ台に砥石を設置 2分20秒:包丁研ぎ開始 4分10秒:カエリが出たので、反対面 6分30秒:最終仕上げ(小刃付・マイクロベベル) 研ぎ音がよく聴こえる音量で、大きめの画面で視聴すると、「 何をどう研ごうとしてるか? 」が判ると思います 月寅次郎チャンネル (YouTube 動画一覧) は、こちらです (「いいね」をもらえると嬉しいです!)
その他の研ぎ画像左の包丁は、 堺刀司の薄刃包丁(岩国作) です アゴの内側を大きくえぐり、面取りしているところが好みです
切れ味も申し分ありません 中古で入手し、面がメタメタに崩れていましたが、使いながらぼちぼち修正しているところです 柄を漆で塗って、中子の防水対策を施しています (当サイトではまだ紹介ページを未作成です。そのうち作りたいと思います)
キングデラックス#800番 顕微鏡画像
外箱の説明書き
ネットが無かった時代は、 この説明を見ながら、自分なりに試行錯誤して研ぎ方を習得した人も多かった のです(わたしもその一人です)
模倣された「デラックス」、各社ギリギリのネーミングで攻めている
戦後の「ギブ・ミー・チョコレート」の時代から、時は流れて幾年月、明治製菓が「ミルクチョコレート デラックス」を発売したのは1957年でした。 クリーム色に彩られたパッケージに燦々と輝く"DE LUXE"という文字は、その当時の人々を魅了したものです。
「キングデラックス」が、明治の「チョコレートデラックス」に影響されたかどうかは定かではありませんが、この頃の「デラックス」という言葉には、高度成長期の消費者に「新しい何か」を感じさせるものがあったのは確かです。
また、 ナニワ砥石も「剛研デラックス」というネーミングで勝負をかけています。 このようにキングデラックスは、他社から模倣した商品が出されるほどのブランドロイヤリティを獲得しています。マーケティング的な勝利を収めた言って良いでしょう。 砥石は、外観からはその良否が全く判らない商品です。研いで使ってみないことには何もわからないのです おかげで、消費者に対する訴求力の高いネーミングに成功した製品でないと、なかなかシェアが拡大しません
ナニワ砥石やスエヒロなど、 日本の有名どころの砥石製造会社は、品質的に同等(場合によってはそれ以上の)製品を作っていたりもする のですが、「キングデラックス」の知名度が高すぎるために、なかなかシェアを奪うまでには至っていません。
個人的には、ナニワ砥石が 「キングを上回る性能を!」と気合い入れて作った「剛研デラックス」 も使ってみたいですし、ワンランク上の砥材を使用した、プレミアム仕様の焼結砥石である「キングハイパー」や「剛研 玄人」も一度使ってみたいものです。
追記 後日、「キングハイパー」を買ってしまいました。 一言でいうと、非常に良い砥石です。 お値段やや高めではあるものの、実に素晴らしい砥石です。 (キングハイパーの解説ページは、まだ未作成です。時間が取れたら作ります)