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「瞳に映った景色」からアイドルの自宅を特定した男「驚愕の手口」
「瞳に映った景色」からアイドルの自宅を特定した男「驚愕の手口」

「瞳に映った景色」からアイドルの自宅を特定した男「驚愕の手口」

2019.11.11
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「瞳に映った景色」からアイドルの自宅を特定した男「驚愕の手口」

プロでもなんでもない素人が…

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急速に進む携帯カメラの高解像度化。そのおかげで写真を撮影した本人が意図しない情報までもがそこに入り込むようになった。あっという間にあなたのすべてが晒される、そんな時代がやってきた。

熱狂的なファンの犯罪

今年9月1日の夜11時のこと。アイドル・松岡笑南さん(21歳)が、東京・江戸川区にある自宅マンションの玄関の自動ドアをくぐろうとした瞬間のことだった。

突然、松岡さんの目の前が真っ暗になり、ものすごい勢いで後ろに引き倒された。背後から男に掴みかかられたのだ。タオルで塞がれた口の端からなんとか『助けて!』と松岡さんが悲鳴をあげると、男は一目散に走り去っていった。

Photo by iStock

被害にあった松岡さんはアイドルグループ「天使突抜ニ読ミ」に所属している。今年4月にデビューしたばかりの6人組アイドルユニットで、自作のポエムを朗読するなど一風変わった活動がマニアの間で注目を集めている。小規模なライブを中心に活動する、いわゆる「地下アイドル」だ。

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松岡さんを襲った犯人が捕まったのは、事件から16日後のこと。逮捕されたのはさいたま市北区の無職、佐藤響被告(26歳・以下呼称略)だ。佐藤は松岡さんが以前、別のアイドルグループにいた頃からの熱狂的なファンで、松岡さんのライブがあれば一番乗りで会場に入り、常に最前列を確保するほどだったという。

中学校時代の佐藤の同級生がその人柄を語る。

「中学生の頃からアイドル好きとして有名で、当時は中川翔子さんのファンだと公言していました。母親と一緒にライブに行ったと聞いたこともあります。母親想いのいい奴という印象があります」

アイドルの松岡さんはもちろん自宅の住所など明かしていない。にもかかわらず、なぜ居場所がファンである佐藤に特定されてしまったのか。その供述は、捜査員を驚かせるものだった。佐藤は、松岡さんの顔写真の瞳に映った風景から、その自宅の住所を割り出したというのだ。

容易に特定できる

「松岡さんはグループの宣伝活動のためにツイッターをやっていて、ライブの告知やファンサービスのオフショットなどを投稿していました。そのツイートの中に、自宅近くの駅で撮られた松岡さんの顔写真があった。光の具合で松岡さんの瞳に駅の周囲の風景が反射し、写り込んでいたというのです」(捜査関係者)

松岡さんのツイッターの投稿をくまなくチェックしていた佐藤は、これを見逃さなかった。SNSのリスクに詳しい首都大学東京法学部教授の星周一郎氏はこう説明する。

「パソコンに画像ファイルをダウンロードして、拡大、レタッチソフト等で輝度を調整すれば、瞳の中の小さな風景も鮮明に見ることができます」

Photo by iStock -AD-

これだけではない。瞳に映る小さな建物の影でも、ネット上のほかの情報と突き合わせることで、特定は容易になる。

ツイッターの投稿から松岡さんが普段利用する路線名を把握していた佐藤は、大体のアタリをつけてグーグルマップのストリートビュー(地図上で指定した場所をパノラマ写真で見られるインターネットサービス)で思いつく限りの駅を検索、駅周辺の様子を写真でひとつひとつ確認し、そしてついに特徴が似た駅を見つけ出した。

日差しの角度で部屋を割り出す

事件には至らないまでも、こうした居場所の特定はネット上では日常茶飯事だ。

過去には、アナウンサーの故・小林麻央さんが入院先の写真をブログにアップしたところ、病院を特定されるという騒動も起こっている。写真に写る壁紙が、病院のホームページで紹介されている病室の写真と酷似していたことから、バレてしまったのだ。

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突き止めたのは、プロでもなんでもない素人だ。

それは今回の事件についても同様である。松岡さんを恐怖に陥れたストーカー・佐藤は、自動車整備士だった。佐藤を知る近所の住人が語る。

「彼はさいたま市内の自動車販売店で整備士として働いていました。車の鍵の調子が悪くなったので、一度修理をお願いしたことがあります。『早めに点検したほうがいいですね。鍵は怖いですから』と丁寧に対応してくれた。どこにでもいる好青年という印象です」

今回の事件は、ネット上にアップした一枚の写真がきっかけとなった。注意をして見れば、たった一枚の写真にも実に多くの情報が含まれている。

そして、ネット上にはそれを裏付ける材料がたくさん転がっていると語るのは、ITジャーナリストの井上トシユキ氏だ。

「佐藤は、松岡さんがツイッターで配信した動画を見て、カーテンの位置や窓の光の差しかたなどから、部屋の位置まで把握していたようです。動画の配信時間と陽の差し込む向きがわかれば、その部屋がどの方角に面しているのかがわかります。

また部屋の数やドアの位置がわかれば、不動産サイトの内覧用映像や間取り図と突き合わせることで、具体的にどのマンションに住んでいるのか特定することも可能です」

ネット上にある断片的な情報をつなぎ合わせることで、住所を絞り込んでいったのだ。

過去にこのような手口で住所を特定されてしまった人がいる。

家族、友人の写真からでも

'13年9月、衣料品チェーン「しまむら」の苗穂店内で、子連れの主婦(当時43歳)が店員を土下座させ、その様子をツイッターに投稿した。すると、ネット掲示板の2ちゃんねるで、「不愉快極まりない」「悪質クレーマー」などと女性に非難が殺到し、「炎上騒ぎ」になった。

「ネット掲示板を利用する不特定多数の人が、ネット上に残っている痕跡を総当たりして、情報を持ち寄ったのです。まず女性が過去にSNSに載せていた写真や投稿が拡散されました。そして、住宅地図から住所が特定されました。

わずか半日足らずのことです。実際に、近くに住んでいる人が特定された女性の家を訪れ、娘と一緒にいるところを写真に撮って、ネット上にアップするという事態にまで発展しました」(井上氏)

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こうした例はほかにもたくさんある。では、具体的に個人情報はどのように特定されていくのか。

住所 ネット上にあげたプライベート写真に、政治家のポスターなどが写り込んでいれば、選挙区からエリアが絞り込まれてしまう。さらに特徴的な看板や建物、電柱の番号などが手がかりになることもある。 勤務先 まず過去の写真から生活圏が割り出される。さらにSNSの投稿などから職業がバレて、職場が特定される。 家族構成 妻や夫の悪口をSNSで書いていれば、配偶者がいることは一目瞭然。さらに子どもの運動会の写真などを投稿していれば、そこから子どもが通う学校まで特定されてしまう。 学歴 フェイスブックの友人に同じ出身校の人間が複数人いれば、友人たちのプロフィールから出身校が特定される。同窓会の写真からバレることもある。

以上はほんの一例である。思いもよらない写真や投稿から個人情報が特定されてしまうのだ。

本人ではなく、友人や家族がSNSに写真をあげていても、そこから個人情報が漏れてしまう可能性がある。

「ピース」から指紋を読み取る

たった一枚の写真から個人の特定が容易になった原因はこれだけではない。カメラなどの技術革新が個人情報の特定に一役買っている。

例えば、デジタル写真は、パソコンのソフト等を利用することで、明るさや色を簡単に補整することができる。プリントの写真では暗かったり、ぼやけたりして見えなかったものが、デジタル写真では鮮明に見ることができるのだ。

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デジタルカメラ本体の性能も向上している。カメラ付き携帯電話が登場した20年ほど前、カメラの画素数はおよそ10万画素程度だった。それが今では200倍のおよそ2000万画素のカメラ付きスマートフォンが普及している。

国立情報学研究所が2016年に行った興味深い実験がある。3mも離れたところからデジタルカメラでピースサインをした人物を撮影する。その写真から指紋を解析することに成功したというのだ。この実験を行った国立情報学研究所教授の越前功氏が説明する。

「このとき、指紋をもとに、凹凸を再現した『人工の指』を作製したところ、その人になりすまして、スマホの『指紋認証』を突破することができました」

ピースをする際には、顔の横に手を掲げることが多い。顔にピントが合っていると、自ずと指にもピントが合うことになる。こうした写真から指紋を盗まれてしまう。

ほかにも海外の研究機関の実験では、撮影した顔写真の眼の虹彩から、その人の瞳を再現したコンタクトレンズを作製した例もある。第三者がこれをつけて試してみたところ、虹彩認証のスマホのロックを解除することに成功したという。

「指や眼が写っているということは本人の顔もまず一緒に写っている。顔や背景から個人情報が特定され、その次にATMなどの生体認証も突破されてしまう可能性があります。生体情報は終生不変なものなので、一度盗まれてしまうとやっかいになります」(越前氏)

「顔認証」からは逃れられない

一方でこうした技術が大いに役立ったケースもある。徳島で起きたある性犯罪事件では、警察が容疑者と見込まれる男のスマホを押収したところ、被害者の顔写真が保存されていた。

これだけでも有力な証拠だが、さらなる事実が発覚した。

当時、鑑定課で事件を担当していた徳島県警生活安全部生活環境課次長の秋山博康氏が語る。

「被害者の顔写真を拡大し、色や明るさを修整したところ、被害者の瞳に、容疑者の姿が写り込んでいることがわかりました。また、背後の様子から、その場所が犯行現場であることも特定できました。動かぬ証拠を突きつけられた容疑者は、否認せず、犯行を認めました」

警察も負けじと、顔写真の瞳から個人情報を割り出していたのである。

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高解像度化が進んでいるのはスマホカメラだけではない。ITジャーナリストの三上洋氏が語る。

「隣国・中国の深センでは、歩行者の信号無視が常態化し、問題となっていました。そこで、自治体が監視カメラを設置し、信号無視した歩行者を録画し、モニターに違反者の顔を映し出す顔認証システムを採用しています」

こうした技術は日本でもすでに使われている。

MARUZEN&ジュンク堂書店などが採用しているのが、顔認識技術を用いた万引き抑止システムだ。店舗で身柄を確保した万引き犯の顔情報を共同のデータベースに登録する。書店の入り口をくぐるすべての客はいったん顔を録画され、あらかじめ登録された過去に万引きをした人物と照合される。登録された人物が入り口を通過すると、警備室に通知が行き、店員はこの人物の動向を確認し警戒する、という仕組みだ。

一度システムに顔情報を登録されると、眼鏡をかけたり、うつむいたりしても同一人物だと認知され、認証率は7~8割の精度を誇るという。

役立つのか、害を及ぼすのかにかかわらず、現代社会にはあらゆるところに「目」がある。一枚の写真から、あなたの個人情報のすべてが丸裸にされてしまうのだ。

『週刊現代』2019年10月12・19日号より

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