JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」は2026年7月5日に小惑星トリフネをフライバイ
JAXA=宇宙航空研究開発機構は2025年12月19日付で、小惑星探査機「はやぶさ2」の拡張ミッション「はやぶさ2#」における小惑星「Torifune(トリフネ)」のフライバイが2026年7月5日になると発表しました。
【▲ 小惑星「Torifune(トリフネ)」をフライバイするJAXA=宇宙航空研究開発機構の小惑星探査機「はやぶさ2」の想像図(Credit: 有松亘&JAXA)】拡張ミッション1つ目の探査対象 滞在はせずに高速で通過
JAXAの「はやぶさ2」は、2019年2月と7月に小惑星「Ryugu(リュウグウ)」で採取したサンプルを2020年12月に地球へ持ち帰った後、次の小惑星を目指して拡張ミッションを続けています。
拡張ミッションの探査対象となる小惑星は2つあります。1つは2031年7月に到着予定の小惑星「1998 KY26」です。2025年9月発表の研究では幅約11mと見積もられている小さな小惑星で、「はやぶさ2」はその周囲を飛行しながら観測を行い、場合によっては小惑星表面へ降下・上昇するタッチダウンを実施する可能性もあります。
もう1つは、2026年7月にフライバイ探査を行う予定のTorifuneです。「はやぶさ2」はTorifuneの近くを毎秒約5kmという相対速度で通過しながら、その様子を観測することになっています。
今回発表されたのは、「はやぶさ2」によるTorifuneのフライバイ日=Torifuneに最も接近する日です。最接近時刻は探査機の運用状況にも左右されるのでまだ決まっておらず、約5時間周期で自転するTorifuneのどこを観測すればより良いデータが得られるのか、日本や海外にある地上局をどのように使用するのかなどの検討を進めた上で、フライバイ日が近付いた頃に改めて発表するということです。
高速ですれ違う小惑星にできるだけ接近して観測する予定
地球から遠く離れた無人探査機が、非常に高速で接近する小惑星とすれ違うのですから、「近くを通過しながら観測する」といっても簡単なことではありません。
JAXAによると、Ryuguのサンプルを採取した「はやぶさ2」は、小惑星に到着してから詳しい観測を行うように設計されました。そのため、「はやぶさ2」がTorifuneの良い観測データを得るためには、フライバイ時にできるだけTorifuneへ近付く必要があります。
ところが、フライバイ時の「はやぶさ2」とTorifuneの相対速度は、前述の通り毎秒約5kmもあります。Torifuneの幅は平均約450mと推定されていますから、計算上、「はやぶさ2」は0.1秒あればTorifuneを横切れてしまうほどの高速で接近し、通過して、飛び去っていくことになるのです。
この幅はあくまでも推定値ですし、Torifuneは細長い形をしている可能性もあるので、あまり近付きすぎると衝突してしまうかもしれません。「はやぶさ2」のTorifuneフライバイでは、まだわかっていない性質があることを考慮した上で最接近距離を決定しなければならないという、難しい運用が求められるのです。
「はやぶさ2」の運用チームは、フライバイ時にTorifune表面から1km程度まで接近できないか検討しているということです。
【▲ フライバイ探査時の探査対象天体からの距離と探査機の姿勢の変化を示した図。距離が遠い①では探査機の姿勢を大きく変化させなければならないが、近くを通過する②では最接近直前までは姿勢を小さく変更するだけで済む。③では探査機の姿勢を変更する必要はないが、天体に衝突してしまう(Credit: JAXA/ISAS)】Torifuneの良いデータが得られること以外にも、可能な限り接近することにはメリットがあります。「はやぶさ2」のカメラは機体に固定されているので、すれ違う小惑星を継続的に観測するには、小惑星の見かけの動きに合わせて探査機の姿勢を変えなければならないからです。
どういうことかというと、離れてフライバイする場合はTorifuneの見かけの動きが早い段階から大きくなるため、探査機の姿勢もそれに合わせて変更しなければなりません。一方、近付いてフライバイする場合は、最接近が間近になるまでTorifuneの見かけの動きは小さくなるため、探査機の姿勢を少し変更するだけで済むのです。最接近時には非常に高速で動いて見えることになるので、その直前で観測は終了することになります。
非常に大雑把なイメージですが、離れた道路を走っている車と、対向車線を走ってくる車を観察する様子を想像してみて下さい。道路はどちらも直線・平坦です。離れた道路の車は視野の中で常に移動し続けるので、動きを追うには目や首を常に動かすことになりますし、遠いので車体の詳細もあまりよくわかりません。
一方、対向車線の車は視野の中でほぼ同じ位置に留まりながら近付いてきます。十分近づけば車体の詳細もよくわかるようになりますが、すれ違う瞬間には大きく動いて後方へ走り去ります。このイメージでいう「対向車線の車をすれ違う直前まで観察する」ことを、「はやぶさ2」はTorifuneの高速フライバイで実施しようというわけです。
小惑星の衝突を防ぐ将来のミッションにもつながると期待
また、小さな小惑星に対する精密な誘導が求められる「はやぶさ2」の高速フライバイは、プラネタリーディフェンス(地球防衛、惑星防衛)にも資する挑戦です。
NASA=アメリカ航空宇宙局は2022年9月に、小惑星軌道変更ミッション「DART(Double Asteroid Redirection Test)」の無人探査機を小惑星「Didymos(ディディモス)」の衛星「Dimorphos(ディモルフォス)」に衝突させることに成功し、実際にDimorphosの公転周期が短縮されたことが確認されています。
【▲ NASA=アメリカ航空宇宙局の「DART」ミッションの探査機が小惑星「Didymos(ディディモス)」の衛星「Dimorphos(ディモルフォス)」へ衝突した時の様子。DARTから衝突前に放出されたASI=イタリア宇宙機関の小型探査機「LICIACube」が撮影(Credit: ASI/NASA)】将来、地球に衝突する可能性が高いと判断された小惑星に対して、その軌道を変更して衝突を回避するミッションが実際に行われるかもしれません。
「はやぶさ2」はTorifuneに衝突しないように運用されますが、その至近を高速でフライバイするための精密な軌道誘導は、プラネタリーディフェンスにおける日本の貢献にもつながると期待されています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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