『ばけばけ』は今までの朝ドラとは“時間”のかけ方が違う? 「ダキタクナイ」が傑作ワードに
概ね愉快な1週間だったが、単なる洋妾誤解コントだけで終わらせないのが『ばけばけ』だ。「抱きたいでしょ」と怒ったフミが、トキがひとりヘブンの家で働いていたころをさぞこわかっただろう、と慮る。こちらの母心のほうが真実を帯びて響く。時々垣間見える池脇千鶴の慈愛に満ちた表情や声がこのドラマの救済だ。
トキがひどく怯えているのがよくわかるのは、夜、遊郭の前を通って帰るとき、女たちがお金と引き換えに男性にしなだれかかっているのを見て耐えられない気持ちになっている場面だ。ふだん明るく振る舞っているが、内心はそうではない。お金のために自分の自由を誰かに握らせるということは、とても苦しいこと。だから、彼女は三之丞がプライドを守ってトキからお金を受け取らないことに激しく腹を立てる。ド底辺までいったらプライドなんて言っていられないのだとトキ自身は開き直るところまで来てしまった。
息子にそんな生き方を強いるタエもどうかと思うし、三之丞も一度は松野家に頼りに来たこともあったのに、いざお金をもらうと受け取らないのはなぜなのかともやや首をかしげるところもある。そもそも、トキだって働き手を増やすために婿をとり彼をさんざん働かせていたのだ。
主人公・トキは誰よりも純真なわけではない。彼女もまた、弱肉強食の容赦ない残酷な世界に生きるひとりである。善行をすることもあれば、ずるいこともする。嵐のなかで小さな葉っぱがひらひらと表裏になりながら流されていくように、人間は自分のちからじゃどうしようもないものに翻弄されて生きているのだろう。その滑稽さを哀しんだり笑ったり。しゃばしゃばのお茶漬けみたいになんとも滋味深い朝ドラである。
■放送情報 2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』 NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送 NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送 NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送 出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス 作:ふじきみつ彦 音楽:牛尾憲輔 主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」 制作統括:橋爪國臣 プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭 演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史 写真提供=NHK
木俣冬テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。
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