【外科医が教える】手術中に「おしっこ」が出そうになったらどうなる?
唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されている。今回は、著者が書き下ろした原稿をお届けする。好評連載のバックナンバーはこちらから。
Photo: Adobe Stock尿の通り道によく入れるものと、入れてはいけないもの
手術を受ける患者さんからよく問われることの一つに、
「手術中におしっこが出そうになったらどうなるのか?」
というものがある。
確かに全身麻酔手術を受ける時は、長い時間ベッドに寝かされることになる。手術は時に、5時間や10時間、あるいはそれ以上の長丁場である。手術を受ける身になれば、途中で自分の尿が漏れてしまわないか、不安になるのは当然だ。
だが、心配はご無用である。
全身麻酔手術の最中は、尿の通り道に管を入れておくからだ。管を通って流れ出た尿は、その先につなげた袋に自然と溜まる仕組みである。
この管を尿道カテーテルという。
一般的には、全身麻酔がかかり、患者さんが眠ってしまった後、このカテーテルを尿道から膀胱内に挿入する。
カテーテルにはラテックスやシリコンなど柔らかい素材が使用されており、これにゼリーをつけた上で丁寧に挿入する。尿道を傷つけないためだ。
むろん、単なる管を入れただけでは、手術中にスルリと抜けてしまうかもしれない。そこで尿道カテーテルの先端には、水を入れると膨らむバルーンがついている。
このバルーンを、カテーテルの先端が膀胱内に入ったのち膨らませる。すると、まるでラムネ瓶の口からビー玉が出てこないように、カテーテルは容易に抜けないようになるのだ。この機能から、医療者は尿道カテーテル自体を単に「バルーン」と呼ぶことが多い。
なお、多くの場合、尿道カテーテルは手術の後もしばらく入れたままにしておく。
手術直後は安静が必要で、トイレまで歩けないことや、尿の量を正確に測定する必要があることなどが理由だ。
男性はペニスがある分、女性より尿道がはるかに長い。女性の尿道は約4センチメートルだが、男性はその4ー5倍もある。そのため、特に男性の場合、カテーテルが入ったままになることで、尿意のような違和感や痛みを感じるケースもある。この場合は、痛み止めなどを使って症状を緩和するのが一般的だ。
気をつけたい尿道異物
排尿に関わる神経の障害など、さまざまな病気が原因で、膀胱に溜まった尿を自力で排出できなくなることがある。
その場合は、日常的に自分でカテーテルを尿道に挿入し、排尿する方法を用いる。これを「自己導尿」という。最初は医療者に指導を受け、練習して身につけるのが一般的だ。
一方で、自慰行為を目的に尿道に異物を挿入し、取れなくなって病院を受診するケースは少なくない。挿入する異物はさまざまで、文献的には、鉛筆、縫い針、体温計、電池、釘、ロウソクなど多数の報告がある(*)。
異物によって尿道に穴が空く、前立腺を貫通する、腹腔内に入り込むなど大きなトラブルに発展し、手術が必要となったケースも多い。異物挿入により繰り返し手術を受けるケースもあり、「再発予防」の観点からも注意が必要となる。
また、異物によって尿道に炎症が起き、通り道が狭くなってしまうこともある。これを「尿道狭窄」という。尿が出にくくなる、あるいは全く出せなくなることもあり、その場合も手術が必要になる。
場合によっては、お腹の壁を通して直接膀胱に管を入れる「膀胱瘻」を使い、尿を体外に排出しつつ、尿道の炎症を抑えてから数ヵ月のちに手術(尿道形成術)を行うこともある。
尿道は尿にとって唯一の出口であり、毎日ここを1~1.5リットルもの液体が通過する。出口で事故が起これば、一大事になるのは当然だ。
なお、尿道異物の背景には性的虐待があることもあり、医療者側にも慎重な対応が求められる。
私たちの体には様々なところに穴があり、体内と繋がっている。これらの穴には、検査や治療を目的として、日々さまざまな器具が挿入されている。
こうした処置はもちろん、慣れたスタッフが、安全性に留意しながら慎重に行うものだ。乱暴に扱えば、容易に大きな外傷に発展してしまうのは、全ての「穴」に言えることである。
※(*)「尿道異物」で検索(医学中央雑誌)し、抄録を参照に記載した。 監修:小林知広(京都ルネス病院泌尿器科)
(※本原稿はダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)
山本健人(やまもと・たけひと)2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)
外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は開設3年で1000万ページビューを超える。Yahoo!ニュース個人、時事メディカルなどのウェブメディアで定期連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー10万人超。著書に19万部突破のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』『がんと癌は違います~知っているようで知らない医学の言葉55』(以上、幻冬舎)、『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』(KADOKAWA)、『もったいない患者対応』(じほう)ほか多数。 Twitterアカウント https://twitter.com/keiyou30 公式サイト https://keiyouwhite.com
美しく精巧な人体をめぐる冒険――著者より医学生時代に経験した解剖学実習で、大変驚いたことがある。
それは、「人体がいかに重いか」という事実だ。脚は片方だけでも一〇キログラム以上あり、持ち上げるのに意外なほど苦労する。一見軽そうな腕でも、重さは四~五キログラムである。想像以上にずっしり重い。
私たちは、身の周りにあるものの重さを、実際に手にしなくともある程度正確に推測できる。だが不思議なことに、自分の体の「部品」だけは重さを感じない。日常的に「持ち運んでいる」にもかかわらず、である。
一体なぜなのだろうか?
その答えを求めると、美しく精巧な人体のしくみが見えてくる。
人体がいかに素晴らしい機能を持っているか。
健康でいる限り、私たちはそのことになかなか気づけない。
私たちは、たとえ走っている最中でも道路標識を読むことができ、前から歩いてくる人をよけることができる。頭は上下に激しく揺れているにもかかわらず、視界が揺れて酔うなどということはない。
あなたは、今これを読んで「ウンウン」とうなずいたかもしれない。だが、その頭の動きに合わせて、あなたの視界が上下に揺れることはない。
ところが、スマートフォンのカメラを目の前に構え、走りながら動画を撮影してみればどうだろうか。収められる映像は大きく揺れ動き、視聴に耐えるものではないはずだ。
私たちの視界と、カメラが収める映像の違いは何なのだろうか。そう考えると、一つの真実が見えてくる。私たちの体には、「視界が揺れないための精巧なシステム」が備わっているということだ。
私は医師として医学を学び、人体の構造・機能の美しさに心を奪われてきた。一方で、このすばらしいしくみを損なわせる、「病気」という存在の憎らしさも実感してきた。病気の成り立ちを理解し、病気によって失われた能力を取り戻すのも、医学の役割である。
医学を学ぶことは、途方もなく楽しい。知れば知るほど、学ぶことの楽しさは指数関数的に増大していく。私が医学生の頃から絶えず味わってきた興奮を、誰かと共有したい。知識の点と点が線となってつながり、思わず膝を打つときのときめきを、誰かに伝えたい。
本書が目指すのは、過去から未来まで、頭から爪先まで、人体と医学を楽しく俯瞰することだ。幼い頃に買ってもらった新しい図鑑の頁をワクワクしながらめくったときのような、心躍る体験を届けたいと思う。
それでは、さっそく始めよう。
あなたの体をめぐる知的冒険を。
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