13歳女優の官能シーンに批判殺到、上映中止に。女性監督が振り返る
2019.10.23- #映画
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まるで「あいトリ」…問題の本質とは
此花 わか
ジャーナリスト
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ベトナムの新鋭、アッシュ・メイフェア監督による映画『第三夫人と髪飾り』(10月11日より公開中)。スパイク・リーが脚本に惚れ込み、トロント国際映画祭やサンセバスチャン国際映画祭など世界中の数々の映画賞を受賞した傑作だ。
-AD-舞台は19世紀の北ベトナム。富豪のもとに嫁いだ14歳の第三夫人と、彼女を取り巻く女たちの愛、哀しみ、葛藤が、神秘的な秘境の中で叙情的かつ官能的に描かれている。
本作はベトナムで公開されるや否や、主演女優の年齢(撮影当時13歳)や作品のテーマに批判が集中。「官能的」ではあれど、主演女優による直接的なセックスシーンはない。国による正式な上映許可も下りていた。にもかかわらず、主演女優とその家族はSNSで大バッシングを受けることとなった。
5年もの月日をかけてようやく完成した映画だったが、女優と家族を守るため、監督は公開4日後に上映中止にすることを決定した。まるで、「あいちトリエンナーレ」を彷彿とさせるこの騒動。一体、同作の何が問題だったのか――。来日中のメイフェア監督に聞いた。
アッシュ・メイフェア監督主演女優と家族がSNSでストーキング被害に
――激しいセックスやバイオレンスのシーンもないのに、なぜ本作はベトナムでタブー視されたのでしょうか?
メイフェア監督:19世紀のベトナム社会における男尊女卑をあらわにし、女性のセクシュアリティや自立を描いたこと。そして、主演女優のグエンが当時13歳だったことが大きな原因だったのでしょう。彼女と母親に対しSNS上で非難が殺到し、彼女たちを守るためにベトナムで公開4日後に上映を取りやめました。
グエンは家の住所がSNSでさらされたり、学校で待ち伏せされて家までついて来られたり、ひどいストーキング被害にあいました。彼女の母親は「お金で子供を売った」と非難されたり……。でも、グエン自身は本当に強い女性で、この映画に主演したことを誇りに思っていて、非難なんて笑い飛ばしてくれて……彼女には本当に感銘を受けました。世界各地の映画祭やメディアで、本作のなかで描かれる女性が感じている抑圧、“女性性”について雄弁に語ってくれたんです。
要は、若い女優が女性差別や官能性を表現したことや、女性である私が映画を監督したことが、ベトナムに存在するセクシズムを刺激し、大論争にまで発展してしまったんだと思います。
――他の国ではどのような反応があったのですか?
メイフェア監督:さすがにベトナムのような大論争までには発展しませんでしたが、好き嫌いの両極端に分かれましたね。この映画は、どこか人の無意識に働きかけるみたいで、ある一部の人達の神経にさわるようです。それは、本作のメッセージが現代の女性の権利、例えば、中絶の権利などにも繋がる要素があるからでしょう。
『第三夫人と髪飾り』より――この映画を嫌う人たちは、やはり男性なのでしょうか?
メイフェア監督:ほとんどの批判はSNS上なので、実際の性別までは分かりませんし、私に面と向かって非難した人もいないのでなんとも言えません。特定の性別よりも、「女性はこうあるべきだ」というジェンダー・ロールに囚われている人達から嫌われているように思います。
驚いたんですが、ベトナムでの論争や女性の権利を表現したラストシーンがハリウッドでも話題になったんですよ。こんな小さなインディーズの映画なのに。
-AD-白人男性が権力を握る欧米の映画界
――世界の映画界において、女性監督はまだまだ少ないですよね。
メイフェア監督:はい、かなり少ないと思います。私が活動の拠点にしているアメリカでも、アジア人女性の映画監督は非常に少ないのが現状。特に大きな劇場で公開されるような作品にはほとんどいません。アメリカで製作されるフィクション映画の監督の全体の4%が女性だと言われていますが、アジア人女性が占めるのは全体の1%にも満たないでしょう。私は若い頃、ロンドンで劇場関係の仕事をしていましたが、ヨーロッパでも女性の映画監督は少ないですね。
――だから、スパイク・リーから投資を受けても、ポスト・プロダクション(撮影後の作業)の資金集めに数ヶ月もかかったのでしょうか?
メイフェア監督:想像してみて下さい! 白人男性の投資家たちがでーんとふんぞり返っている大きな席で、私みたいなアジア人の若い女性が、19世紀を舞台にしたベトナム女性の映画を売り込もうとしているシーンを(笑)!
それに、やっと資金が集まっても、共産主義国のベトナムで撮影するのは本当に大変でした。セットにたびたび警察が現れては、ひとつひとつのシーンを厳しくチェックしていったんです。でも、どうしてもこの作品は完成したかった。この映画を観た方に、女性差別は昔から現代まで連綿と続いているということを改めて実感してもらえたらうれしいです。
14歳で第三夫人になった曾祖母
――本作に登場する女性たちは監督のご家族がモデルになっているそうですね。
メイフェア監督:はい、本作に登場する年配の女性はみな私の家族がモデルです。90歳を過ぎても元気だった曾祖母と祖母と一緒に同居して、女性ばかりの家庭で育ちましたが、主人公のメイは14歳で結婚した曾祖母がモデルですし、ほかの年配の女性たちも、私の家族やナニー(乳母)を元に作られたキャラクターです。19世紀から20世紀初頭までベトナムでは一夫多妻制は合法で、富裕層の男性は何人もの妻を娶るのが普通だったので、曽祖父には複数の妻がいて、曾祖母は第一夫人ではありませんでした。
『第三夫人と髪飾り』より――監督のご家族を元にしたとはいえ、19世紀のベトナムの生活を知る上でどんなリサーチをされたのでしょうか?
メイフェア監督:脚本は3年ほどかけて書きましたが、撮影前の4ヶ月間は映画の舞台となった北ベトナムの田舎で生活して、地元の慣習を脚本に取り入れました。例えば、初夜や出産のシーンにも反映されています。
-AD-昔の女性たちに“被害者”という意識はなかった
――初夜の儀式にはあるアイテムが使われていますが、どのような意味があるのでしょう?(詳しくは映画を参照)
メイフェア監督:あれには“多産”の願いが込められています。あのシーンで空に輝く月を映したのも、当時の人々が妻に期待する“息子を出産”することを象徴したかったから。
そして、衣装も地元の村で作られているオーガニックのシルクを使っています。村の養蚕農家を取材したときに、卵から幼虫になり、繭から蛹(さなぎ)を経て蛾になるまでの蚕の成長が“女性の一生”を象徴するようにも思えて、メイの嫁ぎ先を養蚕業を営む家族という設定にしました。
『第三夫人と髪飾り』より――一夫多妻制や、息子を産むことだけが妻の役割だとされていた男尊女卑社会のなかでも、女性が “一方的な被害者”のように描かれていないことが印象的でした。
メイフェア監督:曾祖母や祖母の話では、あの時代の多くの女性は、自分たちを男尊女卑社会における“被害者”や“弱者”と捉えていたわけではなかったんです。それどころか、第一夫人は家族に貢献しようと、第ニ、第三夫人を自分で選んでいました。
女性も男性もそれぞれに“自分たちの役割”を全うしようとしていたんですよね。あの時代は、“女性らしく”いるには自分のアイデンティティやセクシュアリティよりも、“女性として社会的な役割を果たす”という意味がありました。それは男性も同じで、個よりも家族や社会が優先されていたんです。
一夫多妻制の妻たちが恐れたもの
――本作で描かれる妻たちのなかで、嫉妬や争いというものが見られませんね。
メイフェア監督:曾祖母や祖母に不思議に思って何度も聞いたんですが、本当に彼女たちの間には“嫉妬”という意識がなかったらしいんです。ベトナム戦争前は裕福な夫の家にはそれぞれの夫人の寝室があったそうですが、戦争後は困窮して広い家もなくなり、一室で夫婦が全員一緒に寝る家族も多かったそうです。「そんなのありえない!」と祖母達に言ったら、戦後の厳しい生活でたくさんの子供を育てるなかでは、お互いに嫉妬して争う余裕はなかったと言うんです。
もちろん人間ですから、多少の嫉妬はあったと思いますが……。ただ、曾祖母や祖母が言うには、当時の一家の主の男性は家族にとっては“恐ろしい存在”で、彼を怒らせないように、女性たちが団結して平和を保とうとしていたそうです。
『第三夫人と髪飾り』より――本作は、登場する女性一人ひとりがさまざまな、大切なメッセージを放っているように見えます。
-AD-メイフェア監督:本作に登場するさまざまな女性を通して描きたかったのは、伝統的慣習がもたらした女性の苦しみの源、“抑圧された女性性”です。これは私の家族のパーソナルな物語ではなくて、世界中の“すべての女性の物語”なんです。
――この作品で描かれる女性たちは伝統的な慣習に抑圧されているものの、現代にも通じる強さを持っていますね。特にラストシーンは物議を醸すと思いました。
メイフェア監督:私が4歳のときに父が他界し、曾祖母に祖母や母など、強い女性に囲まれて育ってきたというのもあるのかもしれません。これまでの歴史で、女性は家庭で働きづくめで生きてきました。とても強いですよね。私はまだ未婚ですが、30代の働く女性として、“母親は強いんだ”と伝えたかった。
そして、ラストシーンにはこだわりました。あのシーンは現代にも通ずる“女性の権利”について問題提起しています。
現代のベトナム人女性が直面する性差別
――ベトナムは(男女格差を図る)ジェンダー・ギャップ指数が2018年の調査では149カ国中、77位でした(ランキングが低いほど不平等。日本は同調査で110位)。つまり、日本や中国(103位)、韓国(115位)に比べたら平等なわけですが、現代のベトナム女性にとって、キャリアと家庭を両立することは難しいのでしょうか?
-AD-メイフェア監督:女性は家庭に従事するものだという社会的抑圧はいまだに強く、仕事と家庭の両立はとても困難ですね。ただ、若い女性には「女性は仕事か家庭を選ばなくてはいけない」と思い込まないでほしい。両方を完璧にしようと思えば難しいかもしれない。でも、両方理想通りにいかなくても、どちらかを選ぶよりはいいと思うんです。実は、このプロダクションのスタッフには撮影中に臨月になった女性がいたのですが、なんとかみなで協力して、彼女が仕事をできるような環境を整えたんです。
――ベトナムは出生率が1.95人と、日本に比べたら高いですよね。ベトナムの女性たちが直面している仕事や家庭における性差別はどのようなものですか?
メイフェア監督:政府の「2人っ子政策」で男女の産み分けによる中絶が多いことですね。ベトナムの男女の出生率比は女児100人に対して男児115.1人というレポート(ベトナムの保健省人口・家族計画化総局による2018年の調査より。自然な出生の場合は女児100人に対し男児105人前後)を読んだことがあります。女性性を描いたこの映画が21世紀のベトナムで論争を巻き起こしたのも、根強い男尊女卑が存在しているからだと思います。
『第三夫人と髪飾り』より 『第三夫人と髪飾り』は10/11(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー (C)copyright Mayfair Pictures.関連記事
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