陸上競技の理論と実践~Sprint & Conditioning~
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ウォーミングアップの科学から実践メニューを考えたウォーミングアップって意味あるの?具体的な実践メニューとその効果
「ウォーミングアップ」は、その後に続くトレーニングや試合のパフォーマンスを高めるために重要な意味を持ちます。体育の授業やマラソン大会の前など、当然のように行っているこの「ウォーミングアップ」ですが、実は種目や状況によって使い分けられなければ、パフォーマンス低下や怪我の原因にもなってしまいます。
「ウォーミングアップのやりすぎ or やらなさすぎ or 間違った方法によって、0.01秒足りずインターハイに行けなかった、インカレの標準を切れなかった…」
「あと一点及ばず、全国大会に出場できなかった。」
「ゲーム開始直後から怪我をしてしまった…」
というのは避けたいものです。
ウォーミングアップは好き勝手やるものではなく、その後の「トレーニングや試合の一部、もしくは全てを左右する」くらいの気持ちを持って実施することが必要だと考えられるでしょう。試合はウォーミングアップから始まっているわけです。
そこでここでは、以下について紹介していきたいと思います。
このページで分かることCLOSE
- ウォーミングアップって意味あるの?具体的な実践メニューとその効果
- ウォーミングアップの効果・役割
- ウォーミングアップで得られる効果
- ウォーミングアップで達成すべきこと
- ウォーミングアップの効果をさらに高める方法(活動後増強・PAP:Post Activation Potentiation)
- ウォーミングアップの効果を高める刺激
- ウォームアップの効果をさらに高めるには、これらを有効活用しよう
- ウォーミングアップの注意点
- 気温に注意しよう
- アップし過ぎに注意しよう
- アップと試合までの時間差に注意しよう
- 静的ストレッチの強さ、長さに注意しよう
- ウォーミングアップの具体的な方法
- ①軽く身体を動かして状態をチェックしよう
- ②身体を温めよう
- ③可動域を確保しよう
- ④種目に応じたドリル、動きの確認をしよう
- ⑤その種目の部分練習・全体練習をしよう
- ⑥その種目で最高のパフォーマンスをするための「事前刺激」を入れよう
- 自分だけのウォーミングアップをデザインしよう
- 参考文献
ウォーミングアップの効果・役割
ウォーミングアップで得られる効果ウォーミングアップを行うことによって、身体に様々な変化が起こります(以下,Larson(2016)を基に紹介)。
~身体を動かすこと自体によって・・・~・心臓や筋肉の血流量が増える。・反動動作が行いやすくなる(筋の協調性が良くなる)。・ストレスや不安感、緊張を緩めて、集中力や注意力を向上させる。
~筋温の上昇によって・・・~・組織の粘度(粘り気)が低下して、可動域が良くなる。・多くの筋線維が動員され、筋肉の反応速度、収縮速度が良くなる。・酸素を運ぶ能力が上がる(ヘモグロビンは筋温が高い時により多くの酸素を取り込める)。
このようなことが起こることによって、短距離走であれば短時間の間に多くのエネルギーを生み出す「無酸素性の能力」や、長時間に渡ってエネルギーを生み出す「有酸素性の能力」が改善されます。跳躍や投てき選手においても、筋肉の反応速度や収縮速度を高めることは必須ともいえることでしょう。なぜなら大きな力を一瞬で、高いスピードを伴わせながら発揮しなければいけないからです。
なので、ウォーミングアップではまず「しっかり身体を動かして血流をよくすること」と「身体を温めること」が達成されないといけません。
また、ウォーミングアップはその競技種目で最高のパフォーマンスを発揮するための準備でもあります。ただ単に身体を動かして身体を温めるだけではいけません。もしそれで完璧だとするなら、お風呂に入った後に自転車を漕ぐだけで、自己ベストが目指せる最高の状態が作れることになってしまいます。ですが、そんなことはありません。
したがって、その種目に応じたドリルや技術確認、試合そのものの運動を利用するなどして、その種目に応じた動きを伴う力発揮の準備を行う必要があります。
ウォーミングアップで達成すべきこと
・身体を動かして血流をよくする・身体を温める・種目に応じた動きを伴う力発揮の準備をする
ウォーミングアップの効果をさらに高める方法(活動後増強・PAP:Post Activation Potentiation)
ウォーミングアップの効果を高める刺激ウォーミングアップでは、その種目に応じた力発揮の準備を行う必要があります。そして、この力発揮を高めてよりパフォーマンスを引き出すためには、「神経系の準備」をしなければいけません。
ここでいう「神経系の準備」とは、筋線維をより多く、タイミングよく動員させたり、脳や脊髄と言った中枢からの刺激発射頻度を高めることによって「より速いスピード、より大きなパワーを効率的に引き出せる状態を作る」ことを指します。
これは、例えば野球選手が軽いバットを全力でスイングしたり、短距離選手が通常のトップスピード以上の速さで前から引っ張られたり(トーイング走)、普段よりも高い神経系の働きを行わせることによって得られるものです。これは、活動後増強(PAP:Post Activation Potentiation)とも呼ばれており、一時的に筋力やパワー、スピードを高める手段、現象として知られています。
また、この活動後増強(PAP)はウエイトなどを用いたレジスタンス運動や、プライオメトリクス(ジャンプ系の運動)によっても引き出すことができるとされています。このように、実際の種目で求められる力発揮に似た刺激、それよりも高い刺激を与えることによって、その後の運動パフォーマンスをより改善させることができると考えられます。
参考動画(トーイング走)
参考動画(高強度のスクワットで刺激を与えて、垂直跳びのパフォーマンスUPを狙う)
さらに、この活動後増強(PAP)は、短距離や跳躍、投てきなどの瞬発系のパフォーマンスだけでなく、長距離などの持久系のパフォーマンス改善にも役立つとされています。力発揮の効率が上がることによって、ランニングの効率が高まるからです。
実際に、Chen et al.(2020)の研究では、プライオメトリクス(スクワットジャンプ、シザージャンプ、両脚連続ジャンプを各8回2セット)を実施した後では、体重の20%のウエイトベストを着て走って刺激を与えたグループや、ただランニングを行っただけのグループよりも、走りの効率(走の経済性:ランニングエコノミー)が4~9%ほど改善されたと報告されています。
ウォームアップの効果をさらに高めるには、これらを有効活用しよう
・実際の種目に近い力発揮・それよりも高いスピード、筋力での力発揮・ジャンプのようにバネを使う刺激
ウォーミングアップの注意点
しかし、ウォーミングアップは状況によってはいつも通りのやり方が逆に悪影響を及ぼしてしまう場合もあります。以降、その注意点について紹介します。
気温に注意しよう
気温が低い場合、普段と同じようにウォーミングアップをしたとしても、筋温が十分に高まらないことがあります。すると、特に短距離走や中距離、跳躍、投てきなど高いスピードやパワー発揮が必要なパフォーマンスには悪影響が出てしまいます。
短時間の高強度運動でのパフォーマンスは、外部の気温によって大きく左右されることもあります。その日の気温に合わせてウォーミングアップの量や、寒さ対策について考える必要があります。
一方、マラソンなどの持久系の運動の場合は、身体の温め過ぎに注意する必要があります。夏場の暑い日に筋温が高まった状態でレースに臨むと、レース中にさらに身体温度が高くなり、運動を継続できる時間が短くなってしまうことがあるからです。そのような非常に暑いコンディション時には、逆に運動前に身体を冷やしておく方が、有利に働きます。
アップし過ぎに注意しよう
いくらウォーミングアップと言えど、立派な運動です。それはやり過ぎれば疲労が溜まってしまいます。先に紹介した「活動後増強(PAP)」を狙って、高強度、ハイスピードの運動を行うにしても多量実施してしまえば疲労が蓄積してしまいます。
また、何気ない運動、そんなにつらくない運動であっても、それを長時間続ければ筋肉の中のエネルギー源(グリコーゲン)が大きく減ってしまい、本番で高い出力を発揮できなくなってしまうことも考えられます。
特に、1日に何レースも行う場合、競技時間が長い場合は、トータルで見ると知らないうちに何時間も動きっぱなしの状況になっています。そんな中で毎回アップを入念に行っていれば、エネルギーが枯渇してしまうのも時間の問題です。「今本当にアップが必要なのか?どれくらい必要なのか?」を考えつつ、糖質やタンパク質などの栄養を補給しつつ、競技に備える工夫も必要です。
アップと試合までの時間差に注意しよう
試合では、ウォーミングアップに専念できる時間が限られていることがあります。特に、招集が始まって競技場内に誘導されてしまうと、思うようにアップができなくなってしまう、アップを行ってから30分~50分経ってしまうこともザラにあることでしょう。一度高まった筋温は簡単に低下することはありません。しかし、特に気温が低い場合、1時間近くじっと待たされてしまえば、身体は冷えてしまいます。
その場合は、できるだけ直前までアップをする、招集時間中に身体が冷えない工夫をすることが重要です。レースまで自由に動ける時間があるのなら、少しでも身体を動かす、刺激を入れる工夫をしてみても良いでしょう。
静的ストレッチの強さ、長さに注意しよう
静的ストレッチとは、筋肉を「動かしながらではなく、じっくりと伸ばしていく」ストレッチです。このタイプのストレッチを、ガシガシと長時間行うと、瞬発系のパフォーマンスや、走りの効率が下がってしまいます。
これに関して、Simic et al.(2013)の研究では、静的ストレッチが運動パフォーマンスに及ぼす影響について、104つの研究を基に考察し、特に、静的ストレッチ後は、筋力、パワー、ジャンプ、スプリント、力の立ち上がり率(RFD)においてネガティブな影響があると結論付けられています。
※Simicほか(2013)より
特定の可動域に制限があって、それが目的のパフォーマンスを制限していると判断できるのであれば別ですが、試合の直前に「じわじわと伸ばす」静的なストレッチを多く実施するのは推奨できないと言えます。
ウォーミングアップの具体的な方法
ウォーミングアップのやり方には、人それぞれの方法があるのは当然です。しかし「とにかく何したら良いかよくわからない」という選手も多いことと考えられます。そのような人は、まず以下のウォーミングアップの手順を参考にしてみてください。
①軽く身体を動かして状態をチェックしよう
体育の授業でやるような準備運動でもよいので、まずは身体を動かしてみましょう。股関節や膝、足首、腰回り、上半身など、色々な関節の動きをチェックしてみます。ここで身体に異常がないかを確認しておくことは、怪我を防いだり、トレーニング内容、試合の内容を考える上で重要な意味を持ちます。
身体に違和感がある場合は、その後の運動を取りやめたり、その部位を軽くほぐしたりしておきましょう。痛みがあるときは必ずチームの指導者に相談してください。テニスボールやフォームローラーを使って、気になる筋肉を刺激しても良いでしょう。その場合は、強引にほぐしすぎないように注意してください。
②身体を温めよう
軽いジョギングなどで身体を温めます。ジョギングでなくとも、以降に紹介する動的ストレッチや簡単な種目のドリルを行いながら温めるのでも良いでしょう。競技レベルやその日の気温にもよりますが、5~15分程度、ある程度連続的に身体を動かせるものが良いかもしれません。最終的に筋温が高まらないといけないので、目安としては「少し汗ばむ」ことを目指して実施します。
とは言え、当然動き過ぎには注意です。筋温はすぐに下がるものでもないので、きついなと思ったら恐れず休息を挟みましょう。
また、筋温を上げることが目的になるので、それを効率よく行おうと思ったら、服装は「やや厚着」にしておきましょう。ウォーミングアップでの動きの邪魔にならず、かつ身体が温まる服装であればベストです。加えて、その日が非常に寒い場合は、事前に軽くシャワーを浴びるなどして身体を温めておくことも有効です。
③可動域を確保しよう
次に、関節の可動域を確保します。目的の種目によって異なる部分はもちろんあるでしょうが、股関節や肩関節、体幹部の可動性はあらゆる運動パフォーマンスに関わります。腰回りは安定させながら、股関節を大きく動かすハードルドリルを実施したり、姿勢を安定させながら、肩や股関節を連動させて行うダイナミックなストレッチを行うのもアリでしょう。
参考動画
④種目に応じたドリル、動きの確認をしよう
身体を滑らかに動かす準備ができたら、種目に応じたドリルなどを通して、より実践的な動き、力発揮を高めていきましょう。短距離走、跳躍であればスプリントドリル、踏切ドリルを行ったりしましょう。長距離であってもスプリントドリルを行って、走りのキレを生み出すような準備を進めていきます。
参考動画
⑤その種目の部分練習・全体練習をしよう
その後、高いスピードで流しをしたり、その競技種目の部分練習を行います。その日の調子を確認しながら、その日最もパフォーマンスを発揮できるための技術の調整をすることが重要です。短距離であれば、スターティングブロックからの加速、跳躍であれば短い助走からの踏み切り、助走合わせなどで、いつもの動きとの誤差を確認しておきましょう。
また、400mや800m走であれば、疲労が溜まり過ぎない程度に「レース前半の入り」だけを走る確認を行うなどして、ある程度呼吸が乱れるような刺激を入れておくことも重要です。
⑥その種目で最高のパフォーマンスをするための「事前刺激」を入れよう
短距離走であれば、先に紹介した「トーイング走」を実施したり、長距離走でも軽くジャンプ系の運動を入れたりして、スピードを極限まで引き出す、走りの効率を高めるような運動を行いましょう。これは、試合の前ならウォームアップの最後、招集時間の直前くらいに実施しておきます。招集開始からレース、試技まで30分以上空くことが多いからです。
ただ、これを「強度の高い運動=キツイ運動」と勘違いして、ガンガン長い距離を走り込んでしまったりしないように注意しましょう。
自分だけのウォーミングアップをデザインしよう
冒頭部分でも述べた通りですが、ウォーミングアップは「自分自身」のパフォーマンスを極限まで引き出せるものであればなんでも構いません。ウォーミングアップは自分の精神を整えて、集中するための時間でもあるため、一概に「これが良い!これはダメ!」と断言できるものは無いわけです。
例えば、選手が試合前に静的ストレッチを実施していたとしても、それがその選手にとって精神的な安定につながる行為であり、瞬発的なパフォーマンスの抑制よりもメリットが上回るような場合は、否定されるべきではないでしょう。
とは言え、今まで良いと思ってきたウォーミングアップの内容が、実はパフォーマンスに悪影響だった、もっと良い方法があった…というケースは多いのではないでしょうか?それを模索するために、ここまで説明してきたウォーミングアップの効果や注意事項を参考にして頂ければ幸いです。
参考文献
・R. Larson(2016)ウォーミングアップとクールダウンをカスタマイズする:塩田徹訳.ハイパフォーマンスの科学(High performance training for sports),D. Joyce & D. Lewindon編:野坂和則・沼澤秀雄監訳,ナップ,pp.103-117.・Chen et al.(2020)A Plyometric Warm-Up Protocol Improves Running Economy in Recreational Endurance Athletes. Front. Physiol. 11:197.・Ball, D., Burrows, C., & Sargeant, A. J. (1999). Human power output during repeated sprint cycle exercise: the influence of thermal stress. European journal of applied physiology and occupational physiology, 79(4), 360-366.・Parkin, J. M., Carey, M. F., Zhao, S., & Febbraio, M. A. (1999). Effect of ambient temperature on human skeletal muscle metabolism during fatiguing submaximal exercise. Journal of applied physiology, 86(3), 902-908.・Simic, L., Sarabon, N., & Markovic, G. (2013). Does pre‐exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta‐analytical review. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 23(2), 131-148.
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